経済社会の急激な変化に対応するため、中小企業や中堅企業が新たな事業分野への挑戦を支援する「事業再構築補助金」が実施されています。総予算は1兆円超にのぼり、新分野展開・業態転換・事業再編などの事業再構築を後押しするための大型補助金です。
対象者や申請要件、補助内容、対象経費など、制度の全体像と最新情報をわかりやすく整理して紹介します。
事業再構築補助金とは何かを押さえておこう
事業再構築補助金は、ポストコロナ時代の構造転換を支えるために、国が打ち出した中小企業・中堅企業向けの支援制度です。新型コロナウイルスによる影響で売上が減少した企業が、新たなビジネスモデルへと舵を切るための費用を幅広く支援する仕組みです。
この補助金は、令和3年度(2021年度)に始まり、当初は年間4回程度の公募を予定してスタートしました。初回公募は2021年3月ごろに開始されており、現在も内容を更新しながら継続的に実施されています。
補助対象となる企業の条件を確認する
中小企業と中堅企業の区分について
補助金の対象になるのは、中小企業および中堅企業です。中小企業の定義は業種ごとに異なり、以下のように資本金または従業員数のどちらかを満たす必要があります。
- 製造業など:資本金3億円以下または従業員300人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または従業員100人以下
- 小売業:資本金5千万円以下または従業員50人以下
- サービス業:資本金5千万円以下または従業員100人以下
一方で中堅企業は、中小企業に該当しない企業のうち、資本金10億円未満の企業が該当します。法律上で明確な基準が定められていないため、今後の運用によっては見直しが行われる可能性もあります。
申請に必要な売上減少要件と事業計画
売上がコロナ以前と比較して減少していることが必要
申請には、過去の売上と比較して一定以上の減収があることが前提となっています。具体的には、申請直前の6か月のうち任意の3か月の合計売上が、コロナ以前の同じ期間と比べて10%以上減少していることが求められます。
この基準は、事業再構築に対する実質的な必要性を見極めるためのものと位置づけられています。
認定支援機関との共同で事業計画を策定
申請にあたっては、「認定経営革新等支援機関」または金融機関と連携し、事業計画を策定することが必要です。補助額が3,000万円を超える場合は、金融機関の関与が必須とされています。
補助金申請における事業計画の作成ポイント
現状分析と再構築の方向性を明確にする
申請にあたって策定する事業計画は、以下のような構成要素を網羅することが求められます。
事業の現状と環境の把握
- 既存事業の内容と市場での立ち位置
- 企業の強みや弱み、事業環境(市場動向や競合状況)
- 外部要因による影響と、再構築が必要な背景
再構築の具体的内容と実行プラン
- 新たに提供する製品やサービスの内容
- 導入予定の設備やシステム、必要な改修などの具体策
- 収益見通しと付加価値向上の見込み
リスク分析と実行体制
- 実行に伴うリスクや課題の洗い出し
- 社内体制、外部協力先の役割分担
- スケジュール、資金調達計画、想定される費用
補助金の枠と補助率について詳しく知る
中小企業向けの補助内容
- 通常枠:補助率2/3、補助額100万円~6,000万円
- 卒業枠:補助率2/3、補助額6,000万円超~1億円
「卒業枠」とは、補助期間中に資本金や従業員数を増やして中堅企業へ成長する計画を持つ企業向けの特別枠です。対象は最大400社程度が想定されています。
中堅企業向けの補助内容
- 通常枠:補助率1/2(4,000万円超の部分は1/3)、補助額100万円~8,000万円
- グローバルV字回復枠:補助率1/2、補助額8,000万円超~1億円
こちらは、海外展開を視野に入れた成長戦略を持つ企業が対象です。売上減少幅は15%以上とより厳しく、事業の将来性がより問われる設計となっています。
緊急事態宣言に伴う特別加点枠の内容
一部の期間においては、特に売上減少が大きかった事業者向けに加点や補助率の引き上げ措置が講じられました。これは、2021年1月から3月のいずれかの月に30%以上の売上減少があった事業者が対象です。
この枠を活用すると、通常より高い補助率が適用されます。
- 中小企業:補助率3/4
- 中堅企業:補助率2/3
補助額の上限は従業員数により異なり、21人以上の場合は最大1,500万円まで認められます。
補助対象となる経費と対象外の費用
設備投資を中心とした経費が支援対象
補助の中心となるのは、事業再構築に直接必要な設備や建物の改修に関わる費用です。
- 建物費(建築・改修)
- 建物撤去費
- 設備費・システム導入費
加えて、以下のような関連経費も一定の範囲内で補助対象となります。
- 外注費(設計・開発など)
- 技術導入費(特許取得など)
- 広告宣伝費(展示会・チラシ等)
- 専門家謝金、クラウド利用料、研修費 など
補助対象外となる主な費用
補助金はあくまで事業再構築に直接必要な費用に限られるため、以下のような費用は対象外です。
- 人件費・旅費・光熱費・通信費などの経常費
- 不動産や株式の購入費
- 汎用品(パソコン、スマホ、家具など)
- 商品の原材料費、消耗品
申請方法とスケジュールの注意点
申請は電子申請システム「jGrants」で行います。申請に必要なGビズIDプライムアカウントの取得には2~3週間かかるため、早めの準備が必要です。
制度自体はすでに複数回の公募が行われており、最新の公募スケジュールは公式サイトで随時確認する必要があります。
今後の事業成長に向けた補助金の活用を
事業再構築補助金は、単なる資金援助ではなく、企業が次の成長ステージに進むための仕組みです。新たな市場への参入や業態転換を検討している企業にとって、この制度は経営戦略を加速させる重要な機会となります。
制度の詳細は毎年見直されているため、活用を考えている場合は常に最新の情報をチェックし、準備を進めることが成功の鍵です。