事業承継引継ぎ補助金(令和3年度補正予算版)は、後継者不足やコロナ禍による経営悪化に直面する中小企業を救済するために設けられた支援制度です。事業承継後の設備投資やM&A支援にかかる専門家費用、さらに廃業費用を補助する仕組みで、最大600万円の補助金が支給されます。
本記事では補助金の概要、対象者、対象となる事業内容、申請手続きの流れまで、わかりやすく解説します。
事業承継引継ぎ補助金とは地域経済を守るための支援制度
事業承継引継ぎ補助金は、中小企業が持つ雇用や技術、ノウハウといった貴重な経営資源を次世代に引き継ぎ、地域経済を持続可能にするための制度です。令和3年度の補正予算により新たに追加され、既存の「ものづくり補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」と並び重要な支援策となりました。
補助金は3つの事業から構成されています。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業再チャレンジ事業
これらは単独でも活用できるほか、併用して申請することも可能です。特に、経営革新事業と専門家活用事業は重複して申請できる点が特徴です。
経営革新事業の概要と対象になる取り組み内容
経営革新事業とは何か
経営革新事業は、事業承継やM&Aを経た後に行う設備投資や販路拡大など、新たな経営革新の取り組みを支援するものです。創業支援型、経営者交代型、M&A型の三つに分類され、経営資源の引継ぎ方法に応じて対象が異なります。
補助金額と補助率の詳細
今回の補正予算では、補助率2分の3(補助額400万円超過分は2分の1)、上限600万円となっています。さらに、廃業を伴う場合には150万円の上乗せが可能です。ただし、生産性向上要件を満たさない場合は、補助上限額が400万円に制限されるので注意が必要です。
補助対象経費と具体例
補助対象となる経費には、設備投資、人件費、原材料費、マーケティング調査費、広報費、専門家への謝金や旅費などが含まれます。また、必要な支出は原則として交付決定後から2023年1月31日までに行う必要があり、対象期間を過ぎた支出は認められません。
経営革新事業に申請できる対象者と満たすべき要件
経営革新事業に申請できるのは、日本国内に拠点を有し、地域経済に貢献する中小企業者または特定非営利活動法人です。反社会的勢力との関係を持たず、法令遵守が徹底されていることも必須条件となっています。
さらに、以下のいずれかに該当することが求められます。
- 小規模企業者
- 直近決算期が赤字
- コロナ禍で売上が10%以上減少している
- 再生事業者として認定を受けている
加えて、承継形態や承継時期にも要件が設定されており、事業承継対象期間内(2017年4月1日から2023年1月31日まで)にM&Aや親族内承継等が行われている必要があります。
専門家活用事業の特徴と申請対象者の条件
専門家活用事業とはどのような支援か
専門家活用事業は、M&Aの際に必要となる専門家の支援費用を補助するものです。事業を引き継ぐ側を支援する買い手支援型と、事業を第三者に譲渡する売り手支援型の2種類があります。
補助金額や対象経費の違い
補助率は2分の3、上限額は600万円となっています。仮に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合でも、最大300万円まで補助を受けることが可能です。対象経費には、専門家への謝金、M&A仲介手数料、廃業支援費などが含まれますが、ファイナンシャルアドバイザーや仲介業者は「M&A支援機関登録制度」に登録されている必要があります。
廃業再チャレンジ事業で新たな挑戦を支援
廃業再チャレンジ事業とは何か
廃業再チャレンジ事業は、既存事業を廃業して新たなビジネスに挑戦する中小企業者を対象に、その廃業にかかる費用を支援する制度です。対象となるのは、事業承継またはM&Aと併用して廃業するケース、または単独で廃業し再チャレンジを目指すケースです。
補助内容と注意点
補助率は2分の3で、上限額は150万円です。対象となる経費は、登記申請費用、在庫廃棄費、建物解体費、原状回復費などです。ただし、在庫等を売却して得た収益を経費とすることはできません。
廃業後、起業や個人事業主としての活動を開始する、もしくは地域経済に貢献できる企業への就職など、具体的な再チャレンジ計画の提出が求められます。
申請手続きとスケジュールのポイント
補助金申請にはgBizIDプライムの取得が必要です。その後、認定支援機関から確認書を受け取り、jGrantsを利用してオンライン申請を行います。書類に不備があると受理されないため、必要書類は事前に十分確認して準備しましょう。
なお、この記事で紹介した申請受付期間(例:第1回公募2022年4月から5月)はすでに終了していますが、最新の公募情報は必ず事前に確認することをおすすめします。
まとめ
事業承継引継ぎ補助金は、事業のバトンをスムーズに次代へつなぐための大きな支援となります。経営革新事業、専門家活用事業、廃業再チャレンジ事業と、状況に応じて最適な制度を選択できるのが魅力です。
特にM&Aや事業再編を検討している企業にとっては、大きな後押しとなるでしょう。複数回の公募が予定されているため、スケジュールに合わせた計画的な申請が成功へのカギとなります。