企業が従業員の賃上げを進めるためには、十分な資金的余力が必要ですが、特に中小企業にとってはハードルが高い場合もあります。そこで、政府が用意している賃上げ支援制度を活用することで、賃上げを現実的に実施できる可能性が広がります。
本記事では、代表的な支援制度である賃上げ促進税制、事業再構築補助金、ものづくり補助金、事業承継・引継ぎ補助金について解説します。従業員の待遇改善を目指す企業は、これらの制度を上手に活用することが重要です。
賃上げ支援制度を活用して中小企業の成長を実現
中小企業にとって、従業員の賃上げは単なるコストアップではありません。モチベーション向上や人材定着率の向上、生産性アップに直結する重要な経営戦略です。
しかし、十分な資金がなければ、どれだけ賃上げの意志があっても実行に移すのは難しいのが現実です。
こうした課題に対応するため、政府は賃上げ支援に特化した税制優遇や補助金制度を拡充しています。特に近年では物価上昇の影響を受け、支援の手厚さが増しており、中小企業にとっては大きなチャンスとなっています。
賃上げ促進税制(中小企業向け)とは
賃上げに応じた税額控除でコスト負担を軽減
「中小企業向け 賃上げ促進税制」は、賃上げを実施した中小企業者や個人事業主に対して、法人税または所得税の一部を控除する制度です。
控除率は以下のように設定されています。
適用要件 | 税額控除率 |
---|---|
前年度比1.5%以上の給与支給増加 | 増加額の15%を控除 |
前年度比2.5%以上の給与支給増加 | さらに15%を上乗せ |
教育訓練費の10%以上増加 | さらに10%を上乗せ |
要件をすべて満たすことで、最大40%もの税額控除が可能です。対象期間は、2022年4月1日から2024年3月31日までに開始する事業となっています。
個人事業主については、2023年・2024年分が対象年度ですので、すでに終了している期間については注意が必要です。今後同様の制度が再整備される可能性にも注目しておきましょう。
事業再構築補助金における賃上げ支援
新事業展開と同時に賃上げを促進できる補助金
「事業再構築補助金」は、新しい事業分野への進出や業態転換を図る中小企業を対象に、設備投資や人材育成費を支援する補助金制度です。
特に賃上げに積極的な企業には以下のインセンティブが設定されています。
- 賃上げ要件を満たせば補助率アップ(中小:2/3、中堅:1/2)
- 賃上げ達成企業は補助上限額を最大3,000万円上乗せ
2022年度の第2次補正予算によって、「成長枠」「グリーン成長枠」「物価高騰対策・回復再生応援枠」などが新設・拡充されました。
なお、これらの枠の公募はすでに締め切られていますが、事業再構築補助金は毎年制度内容が見直されており、今後の公募に向けた準備は重要です。
ものづくり・商業・サービス補助金と賃上げ促進
生産性向上と賃金引き上げを同時に支援
「ものづくり・商業・サービス補助金」は、革新的な製品・サービス開発やプロセス改善を行う中小企業向けの支援策です。
対象となる事業計画には、次の要件が求められます。
- 付加価値額の年率3%以上の増加
- 給与総額の年率1.5%以上の増加
- 事業場内最低賃金が地域最低賃金より30円以上高いこと
補助枠には通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠、グローバル市場開拓枠があり、いずれも賃上げを達成した場合に補助上限が引き上げられる仕組みが採用されています。
回復型賃上げ・雇用拡大枠とは?
特に注目したいのが「回復型賃上げ・雇用拡大枠」です。この枠は、前年度に課税所得がゼロだった中小企業を対象に、2/3という高い補助率で設備投資を支援しています。
業績回復と同時に賃上げを実現したい事業者にとって、有力な選択肢となるでしょう。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)での賃上げ支援
事業承継後の賃上げが補助上限額を押し上げる
「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)」は、事業承継後に新たな設備投資や販路開拓を行う中小企業を支援する制度です。
この補助金では、一定以上の賃上げを実施することにより、通常600万円の補助上限額を800万円に引き上げる優遇措置が設けられました。
また、M&Aにおける専門家費用も対象となり、M&A未成約時でも最大300万円まで補助される仕組みです。今後、事業承継やM&Aを検討している事業者は、この補助金の活用も検討すべきでしょう。
賃上げ支援策を賢く活用して企業力アップを目指そう
中小企業が賃上げに踏み切るには、資金確保という大きなハードルをクリアする必要があります。今回紹介した賃上げ促進税制、事業再構築補助金、ものづくり補助金、事業承継・引継ぎ補助金はいずれも、中小企業が賃上げと事業成長を同時に進めるための強力な支援策です。
各制度には募集期間や適用要件が設定されているため、最新情報をこまめにチェックし、タイミングを逃さず申請を進めることが重要です。
賃上げを実施して、従業員の働きがいを高め、企業の競争力向上を実現しましょう。