国内中小企業の事業承継問題を背景に、政府は「事業承継・引継ぎ補助金」を用意しました。この制度は、経営者交代やM&A、事業再編などを支援し、企業の成長・発展を後押しするためのものです。
本記事では、補助金の概要、対象事業や種類、補助率・上限額などをわかりやすく解説します。事業承継を検討している中小企業経営者にとって、活用価値の高い情報をまとめています。
事業承継引継ぎ補助金とは何かを詳しく解説
日本の企業の99%以上を占める中小企業は、雇用や技術を支える基盤です。しかし経営者の高齢化と後継者不足により、事業承継に悩む企業が急増しています。このままでは多くの雇用や技術が失われ、経済全体に悪影響を及ぼすおそれがあります。
こうした状況に対応するため、政府は「事業承継・引継ぎ補助金」を創設しました。この補助金は、中小企業が経営者交代やM&Aによる事業引継ぎを円滑に進められるよう、設備投資や販路開拓などを支援する制度です。
令和3年度補正予算による支援策であり、事務局は令和4年2月に決定されています。
中小企業の事業承継が急務となった背景
経営者の高齢化が深刻化している現状
経営者の平均年齢は年々上昇しており、今後数年以内に事業承継を迫られる中小企業が急増する見込みです。かつては親から子へ事業を継ぐのが一般的でしたが、価値観の多様化により後継者問題がより深刻化しています。
多くの企業では、後継者が決まらないまま高齢の経営者が事業を続けているのが現状です。このままでは廃業に追い込まれる企業が増えるため、早急な対策が求められています。
コロナ禍による廃業率の急増とその影響
2020年には新型コロナウイルスの影響により、国内での廃業率が過去最高を記録しました。しかも廃業企業のうち約6割は黒字経営にもかかわらず、先行き不安から廃業を選択しています。
特に高齢経営者が多く、70歳以上の割合が年々高まっています。資金に余裕のあるうちに廃業を決断するケースが目立ち、地域経済にも大きな影響を与えています。
事業承継引継ぎ補助金が果たす役割と効果
中小企業の事業承継を円滑に進めることで、雇用の維持や技術の継承を図るとともに、地域経済の安定に貢献することが期待されています。さらに、事業承継後に販路開拓や設備投資などの経営革新に取り組む企業も多く、結果として売上や成長率が向上するケースが増えています。
補助金を活用することで得られる主な効果には次のようなものがあります。
- 後継者問題の解決による企業存続
- 従業員の雇用維持
- M&Aによる事業資産の有効活用
- 廃業コストの削減と生活基盤の安定化
事業承継引継ぎ補助金の3つの支援内容
経営革新事業で販路開拓や設備投資を支援
経営革新事業では、事業承継やM&A後に取り組む販路開拓、設備投資、商品開発などを支援します。次の3つの類型に分類され、それぞれ要件が設定されています。
- 創業支援型:引き継いだ経営資源を活用して創業するケース
- 経営者交代型:親族内承継などで経営資源を引き継ぐケース
- M&A型:株式譲渡や事業譲渡により経営資源を引き継ぐケース
補助率は対象経費600万円までは2分の3、600万円を超える部分は2分の1で、補助上限額は600万円となっています。
専門家活用事業でM&A支援を強化
専門家活用事業は、M&Aにかかる専門家費用を補助する制度です。対象となる費用には、ファイナンシャルアドバイザー報酬、仲介手数料、デューデリジェンス、セカンドオピニオンなどが含まれます。
支援対象は、買い手支援型と売り手支援型に分かれています。それぞれ地域経済への貢献や雇用維持を重視しており、補助率は2分の3、補助上限額は600万円です。なお、M&Aが未成立の場合でも300万円まで補助されます。
廃業再チャレンジ事業で再出発を後押し
廃業再チャレンジ事業では、事業承継やM&Aによる一部廃業、またはM&A不成立による再挑戦に必要な費用を支援します。具体的には、在庫処分費や原状回復費などが補助対象です。
補助率は2分の3で、補助上限額は150万円です。これにより、資金負担を抑えながら新たな事業にチャレンジすることが可能になります。
申請に向けた注意点と今後の動向
事業承継引継ぎ補助金は、類型ごとに求められる要件が異なります。申請にあたっては、事前に自社の状況と補助金の条件を照らし合わせ、適切な申請準備を進めることが重要です。
なお令和3年度補正予算分は、すでに事務局が決定され、令和4年に公募が開始されました。現在は別の年度予算事業に移行しているため、次回以降の募集要項を必ず確認してください。
まとめ
事業承継引継ぎ補助金は、単なる後継者支援に留まらず、企業成長への投資にもつながる重要な制度です。特にコロナ禍以降、事業承継やM&Aに対する関心が高まっており、制度を活用して事業の存続と発展を図る動きが広がっています。
これから事業承継を検討する中小企業経営者は、補助金制度を積極的に活用し、事業の新たな可能性を切り拓いていきましょう。