日本の農業は、食料自給率の低下や農業従事者の高齢化という深刻な課題に直面しています。この状況を打開するため、農林水産省では新たに農業を始める人を対象に「就農準備資金」と「経営開始資金」を設け、支援体制を整えています。
本記事では、これらの資金制度の内容や要件、申請手続きについて詳しく解説します。
日本農業の現状と新規就農支援の重要性
農業従事者の減少と高齢化
農業に従事する人口は年々減少し、平均年齢も68歳を超えるなど高齢化が進んでいます。個人経営体における基幹的農業従事者は、9年間で約64万人減少しました。
このままでは、日本国内の食料供給体制がさらに脆弱化する恐れがあるため、若い世代の就農促進が急務となっています。
食料自給率の低下と農業振興の必要性
日本の食料自給率はカロリーベースで38%と、国際的にも低い水準です。国は将来的に自給率を45%まで引き上げる目標を掲げており、その達成には新たな農業従事者の確保が不可欠です。
農業の持続可能性を確保するためにも、若手農業者の育成と支援が重要視されています。
就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)とは
支援の概要
「就農準備資金」と「経営開始資金」は、40代以下の農業志望者を対象に、就農準備段階および経営開始初期を支援する制度です。独立就農を目指す若手農業者が、経営を安定させるための支えとなっています。
主な支援内容は次の2つです。
- 就農準備資金:農業研修期間中の生活費を支援
- 経営開始資金:就農直後の経営確立を支援
就農準備資金の詳細と交付要件
就農準備資金とは
就農を目指して研修を受ける間、生活資金を支援する制度です。交付対象は都道府県、市町村、青年農業者育成センター、全国農業委員会ネットワーク機構が認定します。
主な交付要件
- 就農予定時に49歳以下であること
- 独立・自営就農、雇用就農、または親元就農を目指すこと
- 都道府県等が認めた研修機関で概ね1年以上(年間約1200時間以上)研修すること
- 常勤の雇用契約を締結していないこと
- 世帯所得が原則600万円以下であること
- 傷害保険に加入していること
- 他の国の生活支援制度と重複しないこと
不適切な研修や就農しなかった場合には、資金返還義務が生じます。
経営開始資金の詳細と交付要件
経営開始資金とは
就農直後の新規農業経営者が、早期に経営を安定させるために支給される資金です。交付主体は都道府県となります。
主な交付要件
- 就農時に49歳以下の認定新規就農者であること
- 独立・自営就農で、農地や機械、施設を所有または利用していること
- 経営の主宰権を持っていること
- 就農地域の農業振興計画に位置付けられていること
- 世帯所得が原則600万円以下であること
- 他の国の生活支援事業と重複していないこと
所得超過や不適切な就農があった場合、交付停止や返還の対象となります。
支給金額と支給期間
資金種類 | 月額支給額 | 年間支給額 | 最大支給期間 |
---|---|---|---|
就農準備資金 | 12.5万円 | 150万円 | 最長2年間 |
経営開始資金 | 12.5万円 | 150万円 | 最長3年間 |
夫婦で就農する場合や複数人で法人設立する場合には、交付額が増額される仕組みもあります。
申請方法と必要書類
主な申請手順
- 研修計画または青年等就農計画を作成
- 交付主体に承認申請
- 交付申請
- 定期的な研修・就農状況報告
申請にあたっては、必ず事前に交付主体に相談が必要です。
必要書類
- 研修計画書または青年等就農計画書
- 半年ごとの交付申請書
- 毎年の就農状況報告書
- 就農報告書(就農後1か月以内)
確定申告について
受給した資金は確定申告が必要です。
- 就農準備資金は雑所得として申告
- 経営開始資金は農業所得(事業所得)として申告
申告内容に不安がある場合は、税務署に相談することをおすすめします。
支援制度を活用して安定した農業経営を目指そう
農業は専門的な知識と技術が求められ、すぐに成果が出るとは限りません。しかし、就農準備資金や経営開始資金を活用すれば、経済的な不安を軽減しながら着実にスキルを積み重ねることができます。
これらの支援制度を上手に活用し、持続可能な農業経営を目指していきましょう。農業の活性化は、国民全体の食の安定にもつながります。未来の農業を支える担い手として、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか?