事業再構築補助金第3回の制度変更と企業の対応ポイント

事業再構築補助金の第3回公募では、新たな支援枠の追加や要件の緩和、補助金の上限額引き上げなど、従来の制度から大きな見直しが行われました。これにより、賃上げ対応が求められる中小企業や、大規模な人員を抱える事業者にも使いやすい制度設計となっています。

本記事では、第3回の制度変更点を分かりやすく整理し、今後の制度活用に向けた実務的な視点もあわせて解説します。

賃上げとコロナの影響を受けた制度見直しの背景

事業再構築補助金の第3回公募は、全国的な最低賃金の引き上げと、新型コロナウイルスによる経営環境の悪化という2つの要因を背景に、従来の枠組みに大幅な改定が加えられました。

2021年度には、すべての都道府県で最低賃金が引き上げられ、全国平均で時給930円という水準になりました。この影響で、特に人件費の割合が高い中小企業では、賃上げに伴うコスト増加への対応が喫緊の課題となっていました。

加えて、長期化するコロナ禍により、売上は回復しつつあるものの、コスト増などの影響で収益が確保できないという企業も多く見られました。こうした状況に対応するため、第3回公募では複数の変更が行われたのです。

賃上げに対応する最低賃金枠の新設と活用方法

最低賃金近辺で雇用を行っている企業向けに、「最低賃金枠」が新たに創設されました。この枠は、通常の補助率よりも高い水準で支援が受けられる制度です。

補助率と上限額の優遇措置

中小企業に対する補助率が、通常の2/3から3/4に引き上げられ、従業員数に応じて以下のような補助上限が設定されています。

  • 従業員数5人以下:100万円~500万円
  • 従業員数6~20人:100万円~1,000万円
  • 従業員数21人以上:100万円~1,500万円

加点措置も用意されており、他の枠と比べて採択されやすい制度設計となっています。

最低賃金枠の申請に必要な条件

最低賃金枠を活用するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。

  1. 2020年4月以降のいずれかの月の売上高が、前年または前々年の同月比で30%以上減少していること(付加価値額での代替も可能)
  2. 2020年10月から2021年6月の間に、最低賃金+30円以内で3か月以上雇用している従業員が全体の10%以上であること

この制度は、最低賃金の引き上げにより経営資源の確保が困難になった中小企業にとって、有効な支援策となります。

従業員数の多い企業に向けた大規模賃金引上枠の新設

従業員規模が大きい企業向けには、「大規模賃金引上枠」が設けられています。この枠は、101人以上の従業員を抱える企業が対象です。

最大1億円の補助とその条件

補助上限額は最大で1億円に設定されており、補助率は以下の通りです。

  • 中小企業:2/3
  • 中堅企業:1/2

通常枠と同様に、要件を満たさなかった場合は自動的に通常枠で再審査される仕組みとなっています。

持続的な賃上げと雇用拡大が求められる

この枠では、単に従業員数が多いというだけではなく、継続的な賃上げと雇用の拡大に取り組む必要があります。

  • 事業計画期間(3~5年)中に、事業場内の最低賃金を年額45円以上引き上げること
  • 同期間中に、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は1.0%以上)増加させること

大規模な賃上げと人材確保による生産性の向上を支援することが、この制度の目的とされています。

通常枠における補助上限額の見直しと企業規模別の対応

従業員数が多い企業ほど賃上げの影響を受けやすいことを考慮し、通常枠でも補助上限額が見直されました。

従業員数ごとの補助上限額

  • 20人以下:100万円~4,000万円
  • 21~50人:100万円~6,000万円
  • 51人以上:100万円~8,000万円

企業規模に応じた上限額の設定により、大規模事業者も制度を活用しやすくなっています。

売上高減少要件の緩和と付加価値額による代替

第3回からは、売上高の減少に加えて、付加価値額の減少によっても申請が可能となりました。これにより、表面的な売上が伸びている一方で、利益が圧迫されているようなケースにも対応できるようになっています。

売上減少に関する新しい2つのパターン

以下のいずれか、または両方の条件を満たせば申請が可能です。

  • (a)2020年4月以降の6か月間のうち任意の3か月の合計売上高が、2019年または2020年1~3月の同3か月と比較して10%以上減少
  • (b)2020年10月以降の6か月間のうち任意の3か月の合計売上高が、同じ基準で5%以上減少

2020年4月~9月の売上を1か月でも含む場合は、両方の条件を満たす必要があります。

付加価値額での判定が可能に

付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を合計した数値を指し、利益率の指標となります。売上は維持しているものの、コスト増で利益が減少している企業にも配慮した制度設計です。

社会変化に対応するための事業再構築の意義

コロナ禍をきっかけに社会の常識や働き方、消費行動が大きく変化しました。対面からオンラインへの転換、非接触ニーズの増加、地域分散型のライフスタイルなど、企業を取り巻く環境は一変しています。

このような環境下で、従来のビジネスモデルに固執せず、新しい価値を創出するための事業再構築が求められています。事業再構築補助金は、こうした変化に挑戦する企業を後押しする制度として設計されています。

第3回公募のスケジュールはすでに終了済み

第3回公募は、2021年7月30日に開始され、同年9月21日で締め切られました。申請はすべて電子申請で行われ、採択結果は2021年11月中旬から下旬にかけて発表されました。

この時期の制度変更は、今後の公募においても反映される可能性が高く、次回以降の公募を見据えて準備を進めるうえで重要な参考となります。

まとめ

第3回公募では、最低賃金引き上げやコロナ禍への対応を目的とした複数の変更が行われました。新たに創設された最低賃金枠や大規模賃金引上枠、通常枠の補助上限額の見直し、さらには要件緩和によって、より多くの企業が活用できる制度に進化しています。

補助金制度は情勢に応じて今後も見直しが行われることが予想されます。自社にとって最適なタイミングで制度を活用するためにも、継続的な情報収集と準備が鍵となるでしょう。